デザイナーとして活動していると、美しいビジュアルを作ることに集中しがちですが、実は表記ルールを知らずにデザインすると法的問題に発展する可能性があります。クライアントから「これをデザインして」と依頼されても、法律に違反する表現は避けなければなりません。
この記事では、デザイナーが知っておくべき表記ルールを分野別に詳しく解説します。実際にデザイン業務で遭遇しやすい事例を中心に、法的リスクを回避するための実践的な知識をお伝えします。
食品・飲料関連の表記ルール
1. 果汁表示に関するルール(JAS法)
果物のスライスや果汁のしずくが描かれた画像やイラストは、一見すると魅力的で美味しそうに見えますが、使用には厳格なルールがあります。
- 果汁100%の商品のみ使用可能:果汁が100%でない商品に果実のスライス画像や果汁のしずくを使用することは、消費者に誤解を与える表示として問題となります
- 具体例:50%果汁のジュースパッケージにオレンジの断面やしずくのイラストを使用するのはNG
- 代替案:果汁の割合を明示し、イラストは抽象的なデザインに変更する
2. 「無添加」「自然」などの表示
- 「無添加」:何が無添加なのかを具体的に明記する必要があります。単に「無添加」とだけ表示するのは不適切
- 「自然」「ナチュラル」:明確な定義がないため、誤解を招く可能性があります
- 「手作り」:実際の製造工程と一致している必要があります
3. 栄養成分に関する強調表示
- 「低カロリー」:100mlあたり20kcal以下、100gあたり40kcal以下の場合のみ使用可能
- 「糖質オフ」:100mlあたり2.5g以下、100gあたり5g以下の場合のみ
- 「塩分控えめ」:ナトリウム量の基準値以下である必要があります
4. 食品アレルギー表示義務
パッケージデザインでは、アレルギー表示は法的義務があります。
- 特定原材料7品目:えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生は必須表示
- 特定原材料に準ずる21品目:推奨表示だが、含まれる場合は表記すべき
- デザイン上の配慮:アレルギー表示は判読しやすい場所とサイズで配置
化粧品・健康食品の表記ルール(薬機法)
5. 効果・効能に関する表現
化粧品や健康食品のデザインでは、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に注意が必要です。
特別な承認を得ている場合を除き、以下のような誤解を招く表現は避けるようにしましょう。
❌ NGな表現例:
- 「シワが消える」「美白効果抜群」
- 「痩せる」「脂肪燃焼」
- 「病気が治る」「健康になる」
✅ OKな表現例:
- 「肌にうるおいを与える」
- 「健康的な生活をサポート」
- 「美容に関心のある方へ」
■ NGな表現がOKとなる場合(例):
- 医薬品・医薬部外品の場合: 厚生労働省の承認を受けた効能・効果であれば表示可能
- 例:「メラニンの生成を抑え、しみ、そばかすを防ぐ」(薬用化粧品)
- 例:「歯周病を防ぐ」(薬用歯磨き)
- 特定保健用食品(トクホ)の場合: 消費者庁長官の許可を受けた保健の用途表示が可能
- 例:「コレステロールの吸収を抑える」
- 機能性表示食品の場合: 届出された機能性関与成分の科学的根拠に基づく機能性表示が可能
- 例:「記憶の精度を高める機能がある」
6. ビフォーアフター画像の使用
- 化粧品:使用前後の比較写真は原則として使用不可
- 健康食品:個人の感想である旨を明記しても、効果効能を暗示する画像は避けるべき
- 代替案:商品の使用シーンや製品そのものの画像を使用
7. 医師や専門家の推薦表現
「医師推薦」「○○大学教授監修」などの表現は、薬機法に違反する可能性があります。
✅ 適切な表現例:
- 「○○医師開発」:実際に医師が商品開発に関わった場合のみ使用可能
- 「皮膚科医相談済み」:安全性の相談を受けた事実がある場合
- 「○○大学と共同研究」:実際に共同研究を行った場合のみ
- 「専門家の意見を参考に開発」:開発段階での相談事実がある場合
❌ 避けるべき表現:
- 「医師推薦」「医師絶賛」
- 「○○大学教授監修」(効果効能を暗示する文脈)
- 「専門医が認めた効果」
- 「医学界も注目」
■ 重要なポイント:
- 事実に基づく表現のみ:実際の関与がない場合は使用不可
- 効果効能の暗示を避ける:医師の関与=効果があるという印象を避ける
- 具体的な関与内容を明記:どのような形で関わったかを明確に
8. 学会発表データの使用
- 学会発表データも効果効能を暗示する使用は避けましょう
- 安全性に関するデータは使用可能な場合があります
- 使用する場合:「安全性を確認するための研究」など、効果を暗示しない表現に
景品表示法(景表法)関連
9. 「No.1」「最高級」などの最上級表現
- 根拠が必要:「売上No.1」「顧客満足度No.1」などは、客観的なデータに基づいている必要があります
- 調査期間・範囲の明記:いつ、どこで、誰を対象とした調査なのかを明示
- 「業界初」「世界初」:十分な裏付けとなる資料が必要
10. 価格表示に関するルール
- 「通常価格」の設定:実際に販売していた期間と価格の根拠が必要
- 「限定価格」「特別価格」:期間や条件を明確に記載
- 「送料無料」:条件がある場合は併記が必要
11. 口コミ・レビューの表示
- やらせレビューの禁止:架空の口コミや金銭を払って書いてもらったレビューの使用は違法
- 写真の使用:本人の許可なく顧客写真を使用することは肖像権の問題
- 効果に関する体験談:薬機法に抵触する可能性があります
ステルスマーケティング規制
12. ステルスマーケティング規制(2023年10月施行)
ブログやコラム、メディア、SNSでの広告表示義務が新たに法制化されました。
デザイナーがコンテンツマーケティングに関わる際は必須の知識です。
- 第三者による投稿の場合:「PR」「広告」「プロモーション」の明記が必須
- 「#AD」「#スポンサー」:SNSでのハッシュタグ表記も有効
- アフィリエイトリンク:収益が発生するリンクがある場合には「広告を含みます」「アフィリエイト広告を含みます」等の表記が必要
- 自社メディアは対象外:自社サイト・ブログでの自社商品宣伝は表記不要
- 位置の重要性:広告表示は投稿の冒頭など、分かりやすい場所に配置
■ デザインでの注意点:
- バナーやボタンデザインでも広告表示を視認しやすくする
- 小さすぎる文字や目立たない色での表記は不適切
- 動画や画像内でも広告表示が必要
著作権・商標権関連
13. フォントの商用利用
- 有料フォント:ライセンス契約の確認が必須
- フリーフォント:商用利用可能かどうかの確認
- Webフォント:サーバーでの利用許諾の確認
14. ストック画像・イラストの使用
- 使用許諾の範囲:商用利用、改変可能かどうか
- クレジット表記:必要に応じて作者名の記載
- 独占使用権:他社でも同じ画像が使用される可能性
15. ロゴやキャラクター、スクリーンショットの使用
- 企業ロゴ:許可なく使用すると商標権侵害の可能性
- キャラクター:著作権者の許諾が必要
- パロディ表現:元作品の著作権を侵害する可能性
- スクリーンショット:著作権者の許諾が必要
16. QRコードの商標と利用
多くのデザイナーが知らない事実ですが、「QRコード」は株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
- 商用利用時の注意:「QRコード」という名称を使用する場合は商標表記が必要
- 代替表現:「二次元コード」「マトリックスコード」などの一般名称を使用
- デザインでの配慮:QRコードを含むデザインでは商標表記の検討が必要
デジタル・プライバシー関連
17. 個人情報保護法関連
- 顧客写真の使用:本人の同意が必要
- プライバシーポリシー:Webサイトでの個人情報取り扱いに関する記載
- Cookie使用:利用者への通知と同意取得
18. デジタル広告の特殊ルール
リターゲティング広告やSNS広告には特別な注意が必要です。
- 個人情報の取得同意:Cookie使用の明示的同意
- 広告の識別表示:「広告」「Sponsored」等の明記
- ターゲティングの透明性:なぜその広告が表示されるかの説明
- オプトアウト機能:広告配信停止の方法を提供
アクセシビリティ・社会配慮
19. アクセシビリティ配慮
- 色覚特性:色だけに頼らない情報伝達
- コントラスト比:文字と背景の十分なコントラスト確保(WCAG基準準拠)
- フォントサイズ:最小12px以上を推奨
- 音声読み上げ対応:適切なalt属性の設定
20. 環境・社会配慮表示
- 「エコ」「環境に優しい」:具体的な根拠と説明が必要
- 「リサイクル可能」:実際のリサイクルシステムが整っている必要
- 「フェアトレード」:認証機関による認証の確認
- 「カーボンニュートラル」:算定根拠と取り組み内容の明示
21. 子ども向けデザインの規制
13歳未満を対象としたデザインには特別な配慮が必要です。
- 過度な購買意欲の刺激禁止:「今すぐ買って」等の表現は不適切
- 現実と虚構の混同:キャラクターと実在人物の区別を明確に
- 保護者同意の取得:個人情報収集時は保護者の同意が必要
- 暴力的表現の回避:年齢に適さない内容の排除
デザイナーが注意すべきチェックポイント
デザイン制作時に以下の点を必ず確認しましょう。
■ 制作前のチェック
- クライアントの業界に適用される法律の確認
- 使用する素材(画像、フォント、イラスト)のライセンス確認
- 表現内容の法的妥当性の検証
- ターゲット層(特に子ども向け)の確認
■ 制作中のチェック
- 薬機法、景表法、JAS法などの該当条文の確認
- 最上級表現や効果効能表現の回避
- 客観的事実と主観的表現の区別
- アクセシビリティ基準の遵守
■ 制作後のチェック
- 専門家(弁護士、薬事コンサルタント)による確認
- クライアント側の法務担当者による承認
- 継続的な法改正情報のキャッチアップ
- 広告表示義務の最終確認
■ 特に注意すべき新しいルール
- ステルスマーケティング規制(2023年10月~)
- Cookie同意の取得義務
- QRコードの商標表記
まとめ
デザイナーは美的センスだけでなく、法的知識も身につける必要があります。「知らなかった」では済まされない法的リスクを回避するため、常に最新の法律情報をキャッチアップし、疑問があれば専門家に相談することが大切です。
特に2023年10月に施行されたステルスマーケティング規制は、多くのデザイナーがまだ十分に理解していない新しいルールです。ブログやSNSでの広告表示義務は、今後ますます重要になってきます。
クライアントからの無理な要求に対しても、法的根拠を示して適切な代替案を提示できるデザイナーは、長期的に信頼される存在となるでしょう。今回紹介した21のルールを参考に、法的リスクを回避しながら魅力的なデザインを制作してください。
■ 覚えておきたい重要ポイント:
- 果汁100%でない商品に果実画像は使用不可
- アフィリエイトリンクには広告表示が必須
- 「QRコード」は登録商標
- 医師推薦は実際の関与事実が必要
- 子ども向けデザインには特別な規制
- アクセシビリティ配慮は社会的責任
この記事の内容は2026年1月時点の法律に基づいています。法律は改正される可能性があるため、最新情報は関係省庁や専門家にご確認ください。
