2025年4月に開幕したEXPO2025大阪・関西万博で、ひときわ注目を集めているパビリオンの一つが「フランスパビリオン」です。
グラフィック、ウェブ、プロダクトなど様々なデザインを手がけるデザイン会社として実際にフランス館を訪れ、そのデザインの素晴らしさに圧倒されました。
この記事では、デザインを学ぶ人にとって非常に参考になるフランス館の魅力を、専門的な視点から詳しくご紹介します。
フランス館の基本情報と「愛の讃歌」というテーマ

フランスパビリオンのテーマは「愛の讃歌」で、「赤い糸の伝説」を通じて、「自分への愛」、「他者への愛」、「自然への愛」といった様々な「愛」に導かれる新しい未来のビジョンを提案しています。
東ゲート正面という万博会場の中心部に位置するフランス館は、会場でも特に大規模な建築を誇り、LVMHグループがメインパートナーとして参画していることでも話題となっています。
待機体験もデザインの一部
人気の高いフランス館では入場待ちが発生することがありますが、その待機時間も無駄にしない工夫が施されています。
待機列ではパビリオンの紹介動画やバーチャルツアーを楽しむことができ、来場者の期待感を高める演出が用意されています。
これは現代のサービスデザインにおいて重要な「待機時間の価値化」という概念の実例として、ウェブサービスやアプリケーション設計においても大いに参考になる取り組みです。
建築デザインの革新性
設計コンセプト:Theatre of Nature(自然の劇場)
フランス館の設計は、建築設計事務所のコルデフィ+CRA-カルロ・ラッティ・アソシアティが共同で手がけ、”生命の劇場”(Theatre of Nature)をテーマに構想されています。
この建築コンセプトの素晴らしい点は、単なる展示空間ではなく、来場者自身が物語の主人公となる体験型の空間を創造していることです。建築家たちは日本の「赤い糸の伝説」からインスピレーションを得て、人と人、人と自然を結ぶ空間を設計しました。
建築デザインの見どころ
1. 流動的な外観デザイン その姿はまるで、劇場の幕がふわりと開いた瞬間のような優雅さ。あるいは、風に揺れるカーテンのような軽やかさを表現しています。この有機的なフォルムは、従来の直線的な建築とは一線を画す革新的なデザインです。
2. ループ状の動線設計 緩やかに空へと導かれるループ状の通路と、頂に広がる緑豊かな屋上庭園が特徴的で、来場者の体験を物語のように演出しています。
3. サステナブル建築の実践 環境に配慮した設計の仮設建築物として計画され、金属製の構造はパーツとユニットにして再び組み立てることができ、プレハブと自然の要素を調和的に融合させ、再利用とリサイクルの好循環を形成しています。
展示デザインの学習ポイント

ルイ・ヴィトンの空間デザイン
ルイ・ヴィトン、ディオールの常設展示、セリーヌ(4月13日~5月11日)、ショーメ(9月1日~10月13日)の特別展示を展開しており、各ブランドの世界観を空間デザインで表現しています。
特にルイ・ヴィトンの展示は、ブランドアイデンティティを空間に翻訳する優れた事例として、デザイナーにとって非常に学びが多い内容です。職人技術(サヴォアフェール)の美しさを、インタラクティブな展示で体感できる設計は見事です。
展示デザインの精密性と美学
1. 緻密に設計された展示品のデザイン フランス館の各展示品は、単なる商品陳列ではなく、一つひとつが緻密に設計されたデザイン作品として配置されています。ルイ・ヴィトンのトランクから職人の道具まで、それぞれの展示品が持つ固有の価値を最大限に引き出すディスプレイ設計は、プロダクトデザインにおけるプレゼンテーション手法として非常に参考になります。
2. リズムとバランスの空間構成 展示品が均一に配置されているリズムの美しさは、まさに音楽の楽譜のような視覚的な心地よさを生み出しています。等間隔の配置ではなく、視覚的重量とバランスを考慮した配置により、来場者の視線が自然に流れるよう計算されています。このリズミカルな配置手法は、グラフィックデザインのレイアウトやウェブデザインのグリッドシステムにも応用できる重要な概念です。
3. 照明デザインの演出技術 自然光と人工照明の使い分けが秀逸で、時間帯や天候に関係なく最適な展示環境を維持しています。特に注目すべきは「照明で魅せるテクニック」の巧妙さです。
- スポットライティング:重要な展示品に焦点を当てるドラマチックな演出
- 間接照明:空間全体を包み込む柔らかな光の演出
- グレーディング効果:明暗のグラデーションによる奥行き感の創出
- 色温度の調整:展示品の素材感を最大限に活かす光質の選択
これらの照明技術は、写真撮影、映像制作、プロダクト撮影においても直接応用できる実践的な学習要素となっています。
アート×デザインの融合
フランスの彫刻家オーギュスト・ロダンの手の彫刻5点が展示され、クラシックなアートと現代的なブランドデザインが見事に調和しています。この古典と現代の融合は、デザインにおける時代性と普遍性のバランスを学ぶ絶好の機会です。
デザイン会社から見た学習ポイント
1. 空間体験のストーリーテリング
フランス館の最大の魅力は、空間全体がひとつの物語として構成されていることです。エントランスから屋上庭園まで、来場者の動線に沿って「愛」というテーマが様々な形で展開されます。
- 導入:エントランスでの第一印象
- 展開:各ブランド展示での体験
- クライマックス:屋上庭園での自然との調和
- 余韻:出口での振り返り体験
2. 視覚的ヒエラルキーの構築
空間デザインにおける情報の優先順位付けは、グラフィックデザインやウェブデザインにも応用できる重要な概念です。フランス館では、建築的な要素から展示物まで、視線の流れを意識した情報設計が見事に実践されています。
■ グラフィックデザイナーの学習ポイント
- 空間における文字情報の配置と読みやすさの工夫
- ピクトグラムやサインシステムの統一されたデザインルール
- 多言語対応におけるレイアウトの最適化
■ ウェブデザイナーの学習ポイント
- ユーザーの動線を意識したインターフェース設計
- 情報の階層化とナビゲーション設計
- レスポンシブデザインの概念の空間への応用
3. ブランドアイデンティティの空間展開
各ブランドの世界観を3次元空間で表現する手法は、あらゆるデザイン分野で応用可能です。
■ プロダクトデザイナーの学習ポイント
- ブランドカラーやフォームランゲージの空間への翻訳
- ユーザーエクスペリエンスを意識した展示什器のデザイン
- 機能性と美しさを両立したディスプレイシステム
■ グラフィック・ブランディングデザイナーの学習ポイント
- 2Dのブランドアイデンティティを3D空間で表現する手法
- 一貫性のあるビジュアル言語の空間展開
- タッチポイント全体でのブランド体験の統一
4. デジタルとアナログの融合
現代のデザインに欠かせないデジタル技術とアナログな質感の絶妙な組み合わせが印象的です。
■ ウェブ・UIデザイナーの学習ポイント
- デジタルインターフェースの物理空間での実装
- インタラクションデザインの空間への応用
- ユーザビリティを考慮したデジタル展示の設計
- 待機時間を活用したエンゲージメント向上策
- バーチャルツアーによる事前体験とユーザー導線設計
- マルチメディアコンテンツの効果的な活用方法
実際に訪れて感じたデザインの魅力

感覚に訴える空間デザイン
美しい空間に足を踏み入れたとき、理由もなく心がふるえるような感覚に包まれる、そんな”感じる体験”を、展示や建築、音や光、香りなどを通じて静かに引き出してくれる場所として設計されています。
この五感に働きかけるデザインアプローチは、現代の体験デザインにおいて非常に重要な要素です。視覚だけでなく、聴覚、嗅覚、触覚にまで配慮した空間設計は、デザイナーとして大いに学ぶべき点です。
ラグジュアリーブランドの空間表現
派手な演出ではなく、静かで深い余韻。ラグジュアリーでありながら、どこか親しみやすい。歴史ある文化の中に、未来へのメッセージがそっと重ねられているという表現が的確です。
これこそが真のラグジュアリーデザインの本質であり、表面的な装飾ではなく、本質的な価値を空間で表現する技術は、あらゆるデザイン分野で応用可能です。
デザイン学習者へのおすすめポイント
各デザイン分野での活用ポイント
■ 建築・空間デザイナー向け
- 建築の外観:異なる角度からの見え方の変化
- エントランス設計:来場者の心理的な導入の演出
- 動線計画:自然な流れを作る空間配置
■ グラフィック・ブランディングデザイナー向け
- サインシステム:多言語対応のタイポグラフィと視認性
- 色彩計画:フランスらしさを表現するカラーパレット
- ビジュアルアイデンティティ:空間全体での一貫した表現
- 展示品配置のリズム:視覚的バランスとグリッドシステムの応用
■ プロダクト・インダストリアルデザイナー向け
- 什器デザイン:機能性と美しさを両立した展示台
- 素材の質感:触れることのできる表面の仕上げ
- 人間工学:利用者の行動パターンと製品の関係
- 展示品の緻密設計:プロダクトの価値を最大化するディスプレイ手法
- 照明との相互作用:素材感を活かすライティングとプロダクトの関係
■ ウェブ・UIデザイナー向け
- 情報設計:空間における情報の階層化と視覚的優先度
- ユーザーエクスペリエンス:訪問者の体験フロー設計と満足度向上
- インタラクションデザイン:デジタル展示でのユーザビリティと直感性
- 待機体験の最適化:バーチャルツアーやコンテンツによる離脱防止策
- マルチメディア活用:動画コンテンツの効果的な配置と再生設計
- レスポンシブ対応:様々なデバイスでの情報表示の最適化
スケッチ・記録のポイント
■ 全デザイン分野共通
- 空間の流れ:動線に沿った視点の変化をスケッチ
- カラーパレット:実際に使用されている色の組み合わせを記録
- タイポグラフィ:サインや展示で使用されているフォントを調査
- 照明効果:自然光と人工光の使い分けと時間変化による印象の違いを記録
■ 分野別記録ポイント
- 建築・空間系:ディテール、接合部、仕上げの細部を記録
- グラフィック系:文字組み、レイアウト、視覚的階層とリズミカルな配置を分析
- プロダクト系:什器の機構、素材の質感、照明との相互作用を観察
- デジタル系:インタラクションの流れ、UIの使いやすさ、待機体験のコンテンツ設計を検証
- 照明・演出系:スポットライト、間接照明、色温度の効果的な使い方を記録
まとめ:デザイナーにとっての学びの宝庫

EXPO2025大阪・関西万博のフランス館は、建築デザイン、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、ウェブ・UIデザインなど、あらゆるデザイン分野の要素が高いレベルで融合した、まさに総合デザインの教科書のような空間です。
コルデフィとCRA(カルロ・ラッティ・アソシアティ)が手掛けたフランスパビリオンは、単なる建築物ではなく「生命の劇場」として構想されており、来場者一人ひとりが主人公となる物語性のある空間体験を提供しています。
■ 各デザイン分野での学びのポイント
- 建築・空間デザイン:有機的フォルムとサステナブル設計
- グラフィックデザイン:多言語対応とブランディング展開
- プロダクトデザイン:展示什器とユーザビリティ
- ウェブ・UIデザイン:情報設計とインタラクション
- ブランディングデザイン:3D空間でのアイデンティティ表現
デザインを学ぶすべての人にとって、このフランス館は一度は訪れるべき価値のある空間です。建築からグラフィック、プロダクトデザインまで、あらゆる分野のデザイナーが学べる要素が詰まっています。
万博期間中(2025年4月13日~10月13日)にぜひ足を運び、世界最高峰のデザインを五感で体験してください。きっと皆さんのデザインワークにも新たなインスピレーションをもたらしてくれるはずです。