「企業っぽいデザインにしてください」「もう少し会社らしい感じで…」
クライアントからこんな要望を受けたとき、どんなデザインを思い浮かべますか?実は「企業っぽい」という表現には、さまざまな方向性が含まれています。スマートで洗練されたイメージなのか、信頼感あふれるプロフェッショナルな印象なのか、それとも革新的なブレイクスルー感を求めているのか…。
この記事では、曖昧な「企業っぽい」デザインの要望を8つのパターンに分類し、それぞれの特徴と制作のポイントを詳しく解説します。デザイナーの皆さんが、クライアントの真意を正確に汲み取り、最適な提案ができるようになることを目指しています。
なぜ「企業・役所っぽい」は曖昧なのか?
「企業っぽい」という表現が曖昧な理由は、企業の業界・規模・文化・ターゲット層によって求められるイメージが大きく異なるからです。
例えば、伝統的な金融機関が求める「企業っぽさ」と、スタートアップのIT企業が求める「企業っぽさ」は全く違います。前者は信頼性や安定感を重視し、後者は革新性やスピード感を重視するでしょう。
さらに、同じ企業でも制作物の用途によって求められるデザインが変わります。株主向けのIR資料なら堅実で信頼できる印象、新卒採用向けのパンフレットなら親しみやすく活気のある印象が適しているかもしれません。
だからこそ、デザイナーは「企業っぽい」という要望の背景にある、クライアントの真の意図を理解する必要があるのです。
「企業・役所っぽい」の各ジャンル
1. スマート系(洗練・先進)

特徴 最新技術や洗練されたサービスを提供する企業に適したデザイン。シンプルで無駄のない美しさを追求します。
色使い
- メインカラー:ブルー系(#1E3A8A, #3B82F6)、グレー系(#374151, #6B7280)
- アクセント:ホワイト(#FFFFFF)、ライトブルー(#DBEAFE)
- 避けるべき色:暖色系、鮮やかすぎる色
フォント
- 欧文:Helvetica, Arial, Roboto
- 和文:ヒラギノ角ゴシック、Noto Sans JP
- 特徴:角ゴシック系、ウェイトは細め〜レギュラー
レイアウト
- 余白を効果的に活用
- グリッドシステムを厳密に適用
- ミニマルで整理された構成
- アイコンは線画スタイル
適用業界 IT企業、コンサルティング、設計事務所、医療機器メーカー
2. グローバル系(国際・多様性)

特徴 国際的なビジネス展開や多様性を重視する企業向け。文化や言語の違いを超えて伝わるデザインを目指します。
色使い
- メインカラー:ネイビー(#1E293B)、グリーン(#059669)
- サブカラー:オレンジ(#EA580C)、ターコイズ(#0891B2)
- 多色使いでも調和を保つ
フォント
- 多言語対応フォント(Noto Sans、Open Sans)
- 読みやすさを最優先
- 統一感のあるフォントファミリー
レイアウト
- 多言語対応を意識した可変レイアウト
- 写真は多様性を表現する人物や風景
- 地図やグローバルなアイコンの活用
- 文化的な配慮を込めたデザイン要素
適用業界 商社、国際物流、多国籍企業、国際機関、語学教育
3. エコ系(環境・持続可能)

特徴 環境への配慮や持続可能な事業運営をアピールする企業向け。自然や地球環境をイメージさせるデザインです。
色使い
- メインカラー:グリーン系(#16A34A, #22C55E, #84CC16)
- アースカラー:ブラウン(#A16207)、ベージュ(#D6D3D1)
- アクセント:スカイブルー(#0EA5E9)
フォント
- 有機的で親しみやすいフォント
- 丸ゴシック系(Rounded、Comfortaa)
- 手書き風フォントのポイント使い
レイアウト
- 有機的な曲線を取り入れる
- 自然の写真やイラストを効果的に配置
- リサイクルマークや環境アイコンの使用
- 紙やテクスチャの質感表現
適用業界 再生可能エネルギー、リサイクル業、オーガニック食品、環境コンサル
4. パッション系(情熱・エネルギー)

特徴 情熱的でエネルギッシュな企業文化をアピールしたい企業向け。動きや躍動感を表現するデザインです。
色使い
- メインカラー:レッド系(#DC2626, #EF4444)、オレンジ(#F97316)
- アクセント:イエロー(#EAB308)、マゼンタ(#E11D48)
- 高彩度で印象的な配色
フォント
- ダイナミックで存在感のあるフォント
- 太めのウェイト(Bold, Extra Bold)
- スラントやイタリック体の活用
レイアウト
- 斜めの要素や動的な構成
- 大胆な文字組み
- 人物の表情やポーズで感情を表現
- エネルギッシュな写真やイラスト
適用業界 スポーツ関連、エンターテイメント、広告代理店、スタートアップ
5. ブレイクスルー系(革新・変革)

特徴 革新的なサービスや技術で業界に変革をもたらす企業向け。未来的で先進的なイメージを演出します。
色使い
- メインカラー:パープル(#7C3AED)、シアン(#06B6D4)
- グラデーション:多色グラデーションの効果的な使用
- メタリック:シルバー、ゴールドのアクセント
フォント
- 未来的でモダンなフォント
- 幾何学的なサンセリフ
- 数字や記号の特徴的なデザイン
レイアウト
- 非対称で実験的な構成
- 3Dエフェクトや立体感
- 抽象的な図形やパターン
- テクノロジー感のあるビジュアル
適用業界 AI・機械学習、フィンテック、バイオテクノロジー、宇宙産業
6. プロフェッショナル系(専門性・信頼)

特徴 高い専門性と信頼性を重視する業界向け。堅実で安定感のあるデザインが特徴です。
色使い
- メインカラー:ネイビー(#1E3A8A)、ダークグレー(#374151)
- アクセント:ゴールド(#D97706)、シルバー(#64748B)
- 落ち着いた色調で統一
フォント
- クラシックで読みやすいフォント
- セリフ体とサンセリフ体の組み合わせ
- 伝統と信頼を感じさせるタイポグラフィ
レイアウト
- 左右対称の安定した構成
- 格調高い写真や素材
- 証書や認定マークの効果的な配置
- 情報の階層を明確に表現
適用業界 法律事務所、会計事務所、金融機関、医療機関、保険会社
7. スタイリッシュ系(洗練・高級)

特徴 高級感と洗練されたブランドイメージを演出したい企業向け。美しさと機能性を両立させます。
色使い
- メインカラー:ブラック(#000000)、ダークグレー(#1F2937)
- アクセント:ホワイト(#FFFFFF)、ゴールド(#F59E0B)
- モノトーンベースの上品な配色
フォント
- エレガントで上品なフォント
- 細いウェイトの美しいサンセリフ
- セリフ体での高級感演出
レイアウト
- 余白を贅沢に使用
- ミニマルで洗練された構成
- 高品質な写真や素材
- 細部へのこだわりが感じられるデザイン
適用業界 高級ブランド、デザイン事務所、建築設計、高級サービス業
8. フレンドリー系(親しみやすさ・人間味)

特徴 親しみやすく人間味のある企業文化をアピールしたい企業向け。温かみのあるデザインが特徴です。
色使い
- メインカラー:ウォームグレー(#78716C)、ソフトブルー(#60A5FA)
- アクセント:オレンジ(#FB923C)、イエロー(#FDE047)
- 温かみのある中間色
フォント
- 親しみやすい丸ゴシック
- 手書き風フォントのポイント使い
- 読みやすく優しい印象のタイポグラフィ
レイアウト
- 有機的で自然な配置
- 人物の笑顔や温かい表情
- イラストや手書き要素の活用
- ストーリー性のある構成
適用業界 教育機関、NPO、地域密着型サービス、人材サービス
クライアントの要望を正確に汲み取る質問術
「企業っぽいデザインにして」という要望を受けたとき、以下の質問で方向性を明確にしましょう。
基本的なヒアリング項目
1. 業界・事業内容について
- 「どのような事業を展開されていますか?」
- 「主要な競合他社はどちらですか?」
- 「業界の中でどのようなポジションを目指していますか?」
2. ターゲット・目的について
- 「この制作物は誰に向けたものですか?」
- 「見た人にどのような印象を持ってもらいたいですか?」
- 「最終的にどのような行動を取ってもらいたいですか?」
3. イメージの方向性について
- 「信頼感と革新性、どちらを重視しますか?」
- 「堅実な印象と親しみやすさ、どちらが大切ですか?」
- 「参考にしたい企業やデザインはありますか?」
8パターンを活用した確認方法
上記で紹介した8つのパターンを簡単に説明し、「どれに近いイメージでしょうか?」と確認する方法も効果的です。視覚的なサンプルを見せながら説明すると、より正確に要望を把握できます。
業界別おすすめデザインパターン
業界 | 第1候補 | 第2候補 | 注意点 |
---|---|---|---|
IT・テクノロジー | スマート系 | ブレイクスルー系 | 技術の種類により使い分け |
金融・保険 | プロフェッショナル系 | スマート系 | 信頼性を最重視 |
製造業 | プロフェッショナル系 | スマート系 | 製品の特性を考慮 |
商社・貿易 | グローバル系 | プロフェッショナル系 | 事業規模に応じて選択 |
コンサルティング | スマート系 | プロフェッショナル系 | 専門分野により調整 |
教育・研修 | フレンドリー系 | スマート系 | 対象年齢を考慮 |
医療・介護 | プロフェッショナル系 | フレンドリー系 | サービス内容により選択 |
環境・エネルギー | エコ系 | スマート系 | 事業内容を反映 |
エンターテイメント | パッション系 | スタイリッシュ系 | ターゲット層に合わせて |
不動産・建設 | プロフェッショナル系 | スタイリッシュ系 | 物件タイプを考慮 |
よくある失敗パターンと対策
失敗パターン1:パターンの混在
複数のデザインパターンを混ぜてしまい、一貫性のないデザインになってしまうケース。
対策
- 1つのメインパターンを決める
- サブ要素は控えめに取り入れる
- 全体の統一感を常に確認する
失敗パターン2:業界特性を無視
クライアントの要望だけを重視し、業界の慣習や期待値を無視してしまうケース。
対策
- 競合他社のデザインを調査する
- 業界のスタンダードを理解する
- 革新性と安定性のバランスを取る
失敗パターン3:ターゲット層の誤解
実際のターゲット層と異なる層に向けたデザインになってしまうケース。
対策
- ペルソナを明確に設定する
- ターゲット層の好みを調査する
- 年齢層や文化的背景を考慮する
まとめ
「企業っぽいデザイン」という要望は、実は8つの異なる方向性に分類できます。スマート系、グローバル系、エコ系、パッション系、ブレイクスルー系、プロフェッショナル系、スタイリッシュ系、フレンドリー系、それぞれに適した色使い、フォント、レイアウトがあります。
デザイナーとして重要なのは、クライアントの業界、ターゲット層、目的を正確に把握し、最適なパターンを選択することです。曖昧な要望に惑わされることなく、具体的なヒアリングを通じて方向性を明確にしましょう。
企業デザイン制作チェックリスト
企画段階
- [ ] クライアントの業界・事業内容を理解している
- [ ] ターゲット層が明確になっている
- [ ] 制作物の目的が明確になっている
- [ ] 8パターンから最適な方向性を選択している
デザイン段階
- [ ] 選択したパターンの色使いルールを守っている
- [ ] フォント選択が方向性と一致している
- [ ] レイアウトがパターンの特徴を活かしている
- [ ] 全体の統一感が保たれている
確認段階
- [ ] 業界の常識から逸脱していない
- [ ] ターゲット層に適したデザインになっている
- [ ] クライアントの要望を満たしている
- [ ] 競合他社との差別化ができている
このチェックリストを活用することで、「企業っぽい」という曖昧な要望にも自信を持って対応できるはずです。クライアントの満足度向上と、自身のデザインスキル向上を目指して、ぜひ実践してみてください。